パッシブデザイン01「パッシブデザインの目指す方向性」
先日のブログで紹介した「吉野菖蒲谷の家」は、じねんもくの「妹の家」です。
敷地のロケーションの良さと、身内の家ということで、一つ踏み込んだ試みを行ったことで暖かい家が実現できているんですが、昨日、データロガーを設置しながら「なんで暖かいのかな?」と、何度も聞いてきます。設計時に説明したと思っているんですが、その考え方が良く伝わっていないと感じました。
パッシブデザインは、設計者、作り手がその考え方を理解しているコトはもちろんですが、計画をまとめ、予算の使い方を決める時、また、実際にその家で暮らし始める時に、住まい手もそのコンセプト、考え方を理解していないと、気持ちよく使いこなせない場合があります。
そこで、パッシブデザインの考え方、コンセプトをこのブログで書きながらながら、新しいhomepageの「コンセプト」を整理していこうと思います。
まず、パッシブデザインが目指す方向性についてです。難しい話ではありません。単純な話です。
パッシブデザイン、温熱計画の概念図、神戸芸術工科大学の小玉祐一郎先生の作成したコンセプト図です。
簡単な図ですが、じねんもくは、この図と小玉先生の説明文を読んだ時に、パッシブデザインの本質を理解できたと思いました。 「これでいこう!」そう決心させてくれた図です。
一年を通しての外気温(外部条件) と住まい手が快適と感じる室温の変化を示し、外気温を快適温度まで整えるのが、住宅の環境計画、温熱設計と捉えます。建築的手法で外気温を快適温度に近づけ、残りの不足分を機械的手法で補うという考え方です。理にかなった、常識的な考え方だと思いまが、このアプローチが最近の建築では、おろそかになっていたんですね。「カッコイイ建築」インターナショナルスタイルには、庇は無く、ガラス鉄骨でできた空間を、「クリーンな」電気を使って強引に、快適な空間を作る考え方が主流でした。超高層建築、オフィスビル、商業施設、電気がなければ機能しない建築ですよね。住宅も同じ流れの中で、エネルギー消費を前提とした、住まいが多く建てられました。
本来、日本の建築は、自然と共存する設えで、機械的手法をほとんど使わないものでした。ところが、戦後の高度成長期、特に60年代以降、エネルギー依存の傾向が急速に高まっていきます。70年代には、エネルギー危機、エネルギーの枯渇が問題になり、さらに、地球温暖化の問題が明らかになって、省エネが叫ばれ始めますが、一度膨らんだエネルギー消費の傾向は、なかなか、縮小できません。現在もその状況は、変化していません。私の家も含め、皆さんの家、新築住宅の契約アンペアー数の状況を見れば理解できますよね。
最近になって、頻発する異常気象や311以降のエネルギーに対する関心の高まりから、その問題の意味や深刻さが理解され、真剣に議論するようになって来ましたが、成果はなかなか上がらない状況です。
スマートハウス、スマートグリッド、最近よく目にする言葉です。エネルギー消費をコンピューターで管理して、効率的に使うことで、省エネを目指そうという考え方ですが、エネルギー消費をエネルギーを使って、やはり、力任せにコントロールしようという、これまでのエネルギー消費を前提とした発想から抜け出せていません。この取り組みが意味がないとは言いませんが、現状のスマートハウス等で実現できている省エネ効果を見ても、この方法だけで、エネルギー問題が解決できないのは明らかです。
小玉先生の概念図が示すように、エネルギーを使わない建築的手法と今後改善改良が進んでくるスマート技術を含む機械的手法の合わせ技で、エネルギーを考える時代だと思います。現状では、まず、建築的手法に力を入れて取り組むべき時だと考えています。
エネルギーを使わない建築的手法、これがまさにパッシブデザインです。
「エネルギーを使わない」と書くと、
「それでどれほどの省エネができるの」「暑さ、寒さを我慢する生活になるんじゃないの」
このようなイメージを持つ人が多いと思います。
そんなことはありません。
我慢することなく、快適で気持ち良く暮らしながら、確実な省エネが実現出来ます。
昨年、全国の設計事務所、工務店が参加する「パッシブデザインコンペ2013」で優秀賞を受賞した
「薩摩ひらやパッシブ」姶良の家 が
その温熱環境、気持ち良い生活、そのエネルギー消費の状況を示しています。
この住宅は、特別なソーラーシステム等を使っていません。
窓から差し込む太陽熱(ダイレクトゲイン)とその蓄熱、
夏場のヨシズ等を使った遮熱やガラリ雨戸の利用等で、
ほとんど空調機を使わない生活が実現しています。
年間1次エネルギー消費量は、鹿児島の一般家庭の1/2以下。
この家には、太陽光パネルも設置していますが、
年間の売電量は、年間1次エネルギー消費量の2倍。
外部からのエネルギー供給は必要ありません。自分の家で1年間に使うエネルギー消費量と同じエネルギー量を外部へ供給しているんです。
この住宅には、スマートハウスと言われるような設備は、何もついていません。
パッシブデザインの工夫を丁寧に行って、そのコンセプトを理解している住まい手が
エネルギーについて考えながら生活を楽しんだ結果、プラスエネルギー住宅が実現しているんです。
昨年の「パッシブデザインコンペ2014」の受賞は、
パッシブデザインの有効性を住まい手と一緒になって実証したこと、
それをを評価して頂いたと思っています。
「吉野菖蒲谷の住宅」は、
昨年の「ゼロエネルギー化推進事業」に採択された3案の一つでした。(実施は、「桜ヶ丘の家」)
「姶良の家」で確認できたパッシブデザイン手法を、
さらに、敷地条件や生活スタイルに合わせて、改良した住宅です。
パッシブデザインを丁寧に行うことで、電気ガスのエネルギー消費にほとんど頼らない生活が実現できています。
年頭は、しばらく パッシブデザインについて、そのコンセプト、設計手法を書いていこうと思います。(つづく)